少しだけ、……背伸びした浴衣。
２年着ていた浴衣も勿論気に入ってるが、あれは苦しい想い出を吸い過ぎた。俺にも少し、袖を通すのを躊躇させる。

だから、新しい浴衣には燃える炎なんて、強そうな柄を選んだ。羽織の良さは、いまいち分からなかったりするから、……見様見真似の世界。格好いい、と思ってたんだ。

貰い物以上に持ち物を大事に出来ない俺だ。
概念の話なら『約束』は、何よりも俺を縛る。そういう意味なら、俺は贈り物と約束を大事に生きてるとも言うのかもな。

俺様姿を現して2年と少しだが……ひとりでは、ヒトとして、生きられないタイプなんだろうなあ。ヤドリガミだから、困る事が少ないだけで。
俺が俺を『ヒト』に分類しないで、あやふやに妖怪だと定義してるから余計な曖昧さが、俺を形作ってる。バス停という特性上、全く知らない他人の談笑に、満足感さえ感じるんだ。ヒトはそうじゃないだろう。

『おれのために』
これは麻薬だ……合法阿片も真っ青の。
いくら俺でも嬉しいって気持ちで加減なく舞い上がってしまう。慣れない嬉しいを伝える俺は、あんたに迷惑をかけてやしないか？
……やだよ、隠さないで教えてくれよ？

俺が他の姿をしようと思うのは稀だから。
一番初めはに見るのは当然アンタがよくて。
舞い上がりすぎててうるせー連絡入れる日々だ。声を掛けられる、は存外嬉しい。
ましてや、アンタ相手なら……なんていうかが気になって、何日何時間永遠に待てる気さえする。
……そんな、舞い上がっていた浴衣姿が、ああだった。
待ち人と合うまでいくつ綿あめを制覇するか、些細なゲームが始まった。